第11章 【桜色】慢性合理的疾患
相澤は一つ、ため息を零した。
自分の言いたい事が
全く伝わっていない事に気付いたからだ。
頷きながらハイリを見る生徒たちの中からは
「確かにそっくりだ」などの声が漏れ始めている。
違う、そう言う意味じゃない。
らしくないツッコミを飲み込み
いつも半分しか開いていない瞼を更に伏せる。
「言っておくが見た目の話じゃねえぞ。
言うなれば愛情だ…。献身的な愛、無償の愛。
ハイリの患者に対する感情はそれに値する。」
目を和らげて見据える先は
今まさに患者の心をどうにかせんと笑う、ハイリの姿。
ハイリは例えその症状が自分の“個性”の専門外であっても
見つけてしまったら最後、絶対に見捨てない。
見捨てることが出来ないのだ。
その性分はもはや能力。
“個性”で救うことを禁じられた心優しい少女が
無意識下に身に着けた、もう一つの治療。
「そんな人間に対して守ろうと思いこそすれ
攻撃しようと思う奴などいねえ。」
強く思想を持つ者ほど
闇に堕ちやすい。
だからそれを支える存在が必要だと
それがハイリのヒーロー界での存在意義だと
相澤はそう考えていた。
「アイツは…お前らが身を投じる世界に必要な人間だ。
そして――」
しかし
大人たちが言っても
きっと無自覚のハイリは納得しない。
だから必要だったのだ
あの娘に気付かせるのに最も適した環境
それこそが
「――アイツにはこのクラスが必要なんだ。」
このクラスだと。