第2章 【桜色】先天性世話焼き
~Sideハイリ~
お蕎麦が届くころには部屋も大方片付いていた。
荷物に関する会話も無くなり、自然と話題は話し損ねていた“個性”の話へと移っていく。
「医学書がやたらと多いが、これもお前の“個性”に関係してんのか?」
「そぉそ、私の“個性”って知識がないと使い物にならないんだよね。」
私の“個性”メディケーションは診断からの投薬、投与だ。
人は多かれ少なかれ何かしらの異常を抱えている。
それは病気や後遺症
細かいものを上げれば睡眠不足だったり、偏食からの栄養不足等上げ始めたらキリが無い。
対象の目を5秒間凝視し、診断。
成分さえ知っていればサプリメントから劇薬までなんでもござれだ。
知識が必要なのは診断も然り。
お陰で医学書や栄養辞典に埋もれる生活だ。
「ただねぇ、私の体力が持たないんだよね。
診断し過ぎるとすぐ寝ちゃうの。」
「自分に投与できないのか?
詳しくはねぇが、カフェインとか?」
「直に見ないとダメなのよね、鏡越しやレンズ越しはアウト。意識を落としてる人にも使えない…色んな意味で没個性だと思ってる。」
肩をすくめて笑って見せると、
彼は「だからメガネか。」と言って少し複雑そうに私を見た。
自然な反応だ
こんな話を聞けば誰だって思う。
『自分の知らぬ間に診断されたのだ』と。
なんとなく予想は付いていた。
そこが気になってしょうがなくて、彼はここまで来たのだろうと。
しょうがない、あんな問いを投げられれば誰だって首を傾げるものだ。
次いで出た句は予想どおりのものだった。
「朝、辛いのかと聞いたよな?
お前の目に俺はどう診断されたんだ?」
向けられたのは朝と変わらない瞳。
咄嗟に目を伏せた私の手首を轟くんが掴み
テーブル越しに引き寄せられた。
「いいから、聞いてみてぇ。」
なんならもう一度診ろと言わんばかりにメガネを取られ躊躇する。真っ直ぐ向けられた視線から逃れることは叶わなそうだと瞬時に悟った。