第11章 【桜色】慢性合理的疾患
~Sideハイリ~
「オッラァァァッッ!!」
――ガンッッ
開始と同時に一気に間合いを詰めたのは
当然、爆豪くんだった。
鈍くも大きな音が遮る物一つとない空間に響き渡る。
片手で軽々と振り下ろされた金属の棒は
見る者にさほど重さを感じさせないだろうけど
同じそれを両手に持ち、受け止める私としては
顔を歪めざるを得ない。
推し負け、後ろへ約2メートル
巻きあがる砂埃に目を細めながら、思い出すのは焦凍の先の言葉だった。
『言っても無理かもしれねぇが気にすんな。
お前のやりたいようにしろ。』
何と情けない事だろう。
自分から言い出しておいて、負荷が掛けられた途端に尻込みをしてしまった。
及び腰になったところで、何もできるハズがないのに。
自分は両手で防いでいるにも拘らず
相手は片手、それでもギリと音を鳴らし後ろに圧される一方。
(やっぱり自分の“個性”は必要なかった。)
これが血気盛んで狂気じみたヴィランなら
投与で意識を落とすという方法もまだあっただろう。
だが目の前のクラスメイトは意外にも冷静だ。
本気を出してない事は素人目にも見て取れる。
その瞳には怒りは見えない
それどころか…
爆豪くんの唇はキリと噛み締められている。
……戸惑っているのだろうか?
(確かに、これじゃ弱い者イジメみたいだもんね。)
自分の状況を客観的に顧みる。
上方から圧が掛かっているのだから下に逃げるしかない。
ユラリと姿勢を落とし、傾けた棒を滑らせると
最初の一撃をなんとか凌いだ自分の手を見下ろし
深い息を繰り返しついた。
金属棒を握る指を見ればそこに肌の色はない。
指先は赤く、関節部はどこも白い。
伝わるのは音でも反響しているかのように繰り返される、痺れのみだ。
「手…ビリビリなんだけど…。」