第11章 【桜色】慢性合理的疾患
(爆豪の“個性”を禁じたとしても、ハイリの勝率など1割どころか1分もない。)
どれだけ贔屓目に見てもそれが現実。
相澤は二人の実力差を冷静に把握していた。
(だが…)
見据える先には、呆然と佇むハイリに歩み寄る轟の姿。
特に会話を交わしたように見えなかったが
気を取り直したように呼吸を整え始めたハイリを見れば
朝感じた少女の変化の原因は自ずと見えた。
相澤は思った。
やはり自分の判断は間違っていなかったと…。
一つ鼻を鳴らし
今から1戦交える二人を見る。
ハイリは変わった。
正確には…
(昔に戻りつつある。)
コンプレックスを抱える前の、自分に素直だった少女に…。
その証拠とも言える第一戦
ハイリから持ち掛けたという、この勝負
少女が何をしようとしているか
是が非でもこの目で見届けなければ。
オールマイトに無理を言ってまで
この授業を変わってもらったのだから。
ピリと張りつめた生徒が
固唾を飲んで向かい合う二人を見守る中
一口分の空気を吸う。
開始の合図をかけん、と手を差し出した時だった。
「先生っ! 始める前にお願いがありますっ!」
この空気を壊さんとばかりに1本の手が上がる。
(やはり何か企んでるか…。)
首に幾重にも巻かれた白い捕縛武器の中に口を埋め
誰にも覚られぬ様、弧を描く。
お願いと言っても譲る気は無いのだろう?
その意を込めた目でハイリを見ると
久しく見なかったいたずらっ子の様な視線を返された。
「私も“個性”を使いません。
代わりに双方に武器が欲しいんです。
そうだな、剣…は怖いから鉄パイプみたいな感じの…!」
パンっと胸の前で一つ手を叩く姿は
小さな頃から名案が浮かんだ時の少女の癖だ。
一体どうする気なのやら。
もはや心中はハイリがどうやって目的を遂げようと画策しているか。それ一つのみ。
「爆豪はそれで構わねぇか?」
「ああ…。」
爆豪の了承は取った。
機転の利く副委員長が既に準備した二本の棒を
二人へと放り投げ、再度手を掲げる。
「勝負は至って簡単。相手を戦闘不能とするか降参させるかだ。くれぐれも殺すなよ。
一本勝負―――…始め!」