第11章 【桜色】慢性合理的疾患
~Side轟~
「…――もし、負けた場合は
ハイリは正式にヒーロー科へ編入、去るのは別の誰かとする。」
これは記憶に新しい。
あの日は虚偽で済ませられたが、今回は如何ほどか…。
ユラリと自分の生徒を見渡す相澤先生が
狙いを定めた様に俺に視線を止める。
気だるげな目はあの日と同じく
喜々として大きく見開かれた。
「「「はあああ!?」」」
誰が切られるか他の奴らは知らねぇんだ。
皆が騒ぐのも無理ねぇ…。
心配なんざしなくても、切られんのは俺だ。
(つまるところ……
俺はハイリに言うことを聞かせるための人質、って所か。)
だからと言ってこの状況で狼狽する程馬鹿でもねぇ。
今の段階で何やったって覆らねぇだろうし
大人の横暴はガキの頃から嫌って程浴びてんだ。
なにより、アイツの負担が増す。
叫声の中、ハイリと視線が絡む。
心配すんなと笑っては見せたが
流石に笑い返す余裕はねぇか…。
立場が逆なら、俄然燃えるが
生憎、ハイリは好戦的なタイプじゃねぇ。
しかも、今の自分の立ち位置を考えると
俺が出張んのはアイツを追い詰めるだけだ。
(上手い具合に、互いに縛り付けられてんな…。)
ハイリとの関係を伏せるという
選択はやはり正しかったと見える。
俺としては除籍云々より
そっちの方が厄介に思えて仕方がなかった。
「安心しろ
ハンデとして爆豪は“個性”の使用を禁止とする。」
だから思う存分戦えと
青ざめたハイリの肩を叩き、集う生徒側へと歩を進める担任。
その向こうで爆豪はストレッチをしながら
ただ宙を睨む。
気は進んでねぇ様に見えるが
やるつもりではあるんだろう。
例え“個性”を禁じられても、ハイリに分があるとは思えねぇ。
担任は一体何がしたいのか?
そもそも、ハイリは何をしようとしてるのか?
まばらな生徒が一ヶ所に集まる様は
まるで混乱を無理に抑えようとしてる
ハイリの心を表してるみてぇだ。
すれ違いざまに青ざめているハイリに一言だけ残し
俺も観戦側へと歩を進めた。