第11章 【桜色】慢性合理的疾患
~Sideハイリ~
「それは良い案だ。」
午後の授業、昼休みの恋ボケは
担任の第一声と共に、色あせる間もなく消え去った。
隣に並ぶ梅雨ちゃんの話によると、この広いグラウンドは
入学初日に「トータル成績最下位の者は除籍処分」と銘打たれた個性把握テストをしたばかりの場所らしい。
相変わらずの鬼畜っぷりだ。
同時に不安がよぎったのは言うまでもない。
「但し、条件は変更させてもらう。
ハイリが勝った場合は好きにすればいい。
だがもし――……」
勿体ぶるような溜めは
まるで私の抱く不安を煽っているかのようだった、
スッと引いた相澤先生の目はそのままクラスの生徒一人一人へと順番に向けられる。
警笛を鳴らす鼓動の音を聞きながら
私は先程の女子更衣室での会話を思い出していた。
『トータル成績最下位の者は除籍処分!?
最低…もう除籍された人が居るの!?』
驚嘆した私の言葉に
タハハと笑ったのはお茶子ちゃんだった。
『いやぁ、私も度肝抜かれたんだ~
だけど嘘やった! 合理的虚偽やって!』
ポカンと口を開けたのは私だけ。
着替え中の皆は苦笑いをしながら
いかにも、してやられた…そんな顔。
『虚偽なんかじゃないよ…。』
だけど私は
相澤消太という男をよく知っている。
『あの人は見込み無しと判断したら容赦なく切り捨てる。
1度言ったことを嘘ついてまで取り消したって事は…
その最下位の人を、見込みありと判断したってことだよ。』
そうだ
それが彼の優しさだ。
ならば何故…
これは何のための優しさだというのだろうか…?
「…――もし、負けた場合は
ハイリは正式にヒーロー科へ編入、去るのは別の誰かとする。」
名指し無しの除籍宣告。
事情を知らない生徒たちは一斉に叫びをあげた。
私の言葉を聞いたばかりの女子たちは猶更だ。
青くなり、固まっている。
だけど、
その相澤先生の目は『誰』かなんて決まっている
そう言いたげに一人の生徒に定められていた。