第10章 【桜色】二重カルテ
~Side轟~
「結局、同じクラスになったね。」
遠くの賑やかさを耳にしながら箸を動かす。
特に会話が無くとも心地いい時間は
ハイリの言葉で終わりを迎えた。
「だな。」
「しかも密会みたいになったね。」
「お陰様でな。」
俺の皮肉など物ともせずに笑うハイリは
ひとしきり笑った後
小さく惑わせた視線を、手元のサラダに落とす。
カタリと置かれたフォークの音と
微かに吐き出された息の音
「なんだか、ね。片思い…してる気分だよ。」
躊躇いがちに紡がれた言葉に
今度は俺が箸をおく番だ。
「は…なんでそうなるんだ?」
一人楽しそうに笑う姿に溜め息をつく。
何故楽しそうにしてるのかにも溜め息をつく。
なんでそうなるのか
それが何で嬉しそうなのか
一言位文句を言っても良いだろう。
しかし開いた口から
その文句が出ることは無かった。
(よくわかんねぇが
すげぇ幸せそうに笑ってんな…。)
クスクスと笑い続けるハイリは、
コホンとわざとらしい咳ばらいをし、再びフォークを手にした。
春風に撫でられる頬は薄っすら赤い
恐らく、照れているんだろう。
「焦凍とは対面してばかりだったから
遠巻きに見るのって初めてでさ…」
サクリと音をたて
フォークをサラダに刺し入れても口には運ばず
ただ思い出したかのように笑うだけ
息をついて、もう1つクスリと笑うと
次に俺を見てはにかんだ。
「遠くから見てカッコイイな、とか
好きだな…とか
そう思うのって片思いみたいでドキドキする。」
「は………」
向けられた無防備な笑顔と
不意打ちで出て来た真っ直ぐな言葉に
身体中が熱を上げる。
熱いのは頭なのか耳なのか頬なのか
たかが手の平一つ
隠せるモンじゃねぇとわかっていても
右手は勝手に動く。
結局は逆上せた額に手を添えて
熱の元凶もとい、ハイリをみやった。
(コイツは
わざと、じゃねぇよな?)
これが素なんだ。
だから困る。
日の光を受けていつもより明るく見える亜麻色は
きっとこの春風より柔らかい。
舞い散る花びらと同じ色に染まった頬は
きっとこの木漏れ日よりも温かい。
わかりきった事だ
コイツは可愛いんだ。
だから
これは絶対
ハイリが悪い。