第10章 【桜色】二重カルテ
~Sideハイリ~
【昼休み
飯持ってお前が昼寝した桜の木まで来い】
LINEにはすぐ気付いた。
内容はなんだか密会のお誘いみたいで
走って行くからどうせ乱れちゃうのに前髪を直して
ご飯を食べるから意味ないのにリップを引いて
結構、浮かれ気味だったのだけど
「…………何か言うことはあるか?」
怒られてしまいました。
「…………ごめんなさい。」
不機嫌な時とは違う
静かに据えられた瞳に顔を上げられない。
「何か目的があんのはわかるが
心配すんのは何もお前だけの特権じゃねぇ…。」
「はい…ごめんなさい。」
綺麗な顔をしている分
細められた目は鋭く、どこか冷たく見えて
怖い
怖いのだけど……
困ったことに
それはそれでカッコイイのだ。
(もうこれは
本格的にこじらせてしまっているな。病気だ。)
恋の病とはよく言ったものだ。
初めてこの言葉を思いついた人に
拍手を送りたくなってしまう。
救いようの無い自分の笑みを隠すように俯くと。
大きなため息が聞こえて
頭の上にポンと手が乗った
心なしか、いつもより強い気がするけど
たぶん…これは許してくれたって事なのだろう。
次に見た焦凍の顔は呆れに満ちていた。
「にしても、真剣勝負とはでかく出たな。
アイツ確か入試1位通過だぞ?」
すぐに離れてしまった手の温もりを逃がさないように
頭に片手を添える。
怒っているとは言ったものの、どちらかと言えば心配をかけている…と言った方が正しかったんだろう。
(やっぱり優しい…。)
目の前の問題が解決した頭は、色気の無いことに
すぐさま本題に思考を巡らせる。
爆豪くん
あの“個性”なら強いだろうとは思っていたけれど…
「そーか、1位か…。」
見頃も過ぎてしまった桜の木の下
大食堂から持ってきたトレーを見ながら、フムと腕を組む。
別段、勝つのが目的でない私にとって
何位通過は気にする必要なかったのだけど…
「あっと言う間に
やられるのだけは避けたいなー…。」
そうでなければ、勝負を持ち掛けた意味がない。
どうしたものか
焦凍に声を掛けられるまで
フォークを手に取ることさえ忘れていた。