第10章 【桜色】二重カルテ
~Side轟~
突然連れ出されたハイリを案じて教室を出たのは
何も俺だけじゃなかった。
一触即発
といっても、爆豪が一方的に突っかかっているだけだが
いつ手を出してもおかしくなさそうな雰囲気。
理不尽な怒りを受けたハイリは一言でその場の空気を変えた。
「じゃあさ、ちょっと一戦交えてみる?」
多分
この野次馬の中で一番焦ったのは俺だろう…。
「ちょ…ハイリちゃんヤベェって!
おい切島! お前止めてこいよ!」
「いや、でも拳を合わせて理解し合おうとしてんだぜ?
男らしいじゃねぇか!」
「ハイリちゃんは女の子だろーがよ!」
切島のボケと瀬呂のツッコミはどうでも良いが
上鳴の言うことはもっともだ。
あいつが爆豪に勝てるとは思えねぇ。
それがわからない程バカでもねぇハズだ。
(また何か考えてんな…。)
口元には笑みを浮かべている割に目は必至だ。
正直あの状態
俺としては見るに堪えねぇが
爆豪だって相応に混乱しているはずだ。
俺が動くのは、万が一にもアイツに危害が及ぶ時でいい。
そう思って今は…と
独占欲も嫉妬も抑え、様子を見ることにした。
とはいえ…
「もし爆豪くんが手を上げそうになった場合は
皆で抑えかかるように!」
「「「おう!」」」
飯田が妙な指揮を執ってるこの状況では
俺がどうこうする必要もあまりなさそうだが…
(どんだけ支持得てんだ、アイツは。)
息巻く野次馬を尻目に肩で息をつく。
嬉しい半分、複雑半分
いや
嬉しい2割、複雑8割…
内緒で付き合ってる身としてはかなり微妙な気分だ。
(教室戻るか……)
要件を済ませたLINEを閉じてスマホを仕舞う。
これ以上見ても恐らく意味はねぇ。
早々に野次馬を抜け、戻った教室はもぬけの殻だ。
「ホントどんだけだよ…。」
誰もいない教室で一人笑う
アイツと付き合うにあたっての障害は一つや二つじゃねぇ
そんなことを考えていた。