第10章 【桜色】二重カルテ
~Side爆豪~
わかってんだ
担任の一切隠す気ない横暴も、振り回されてるコイツも
昨日から目にしてんだ。
わかってんだ。
コイツが折れた理由。
わからねぇ訳がねぇんだ。
『リカバリーガールをうちのクラスの、主に1人が独占する訳にもいかないだろう?』
あの言葉を受けたコイツは、すぐさま俺の方へと目を向けた。
だが目は合わなかった、
当然だ、コイツが見てたのは俺の後ろのデクだ。
あの一瞬で誰の事を指してるか理解して
庇う為に頷いた。
わかってんだ
わかってんだ!
だからわからねぇ…
誰もが羨む将来をあっさり捨てるこいつが
そうまでして掴んだ自由を
ヒーロー志望でもねぇのに、デク一人の為に捨てるこいつが
とにかく引っかかってしょうがねぇ。
目の前の亜麻色の瞳が申し訳なさそうに揺れる。
話聞きゃ少しはスッキリすると思ったが…
何を勘違いしてんのか、出てくるのは詫びばかりだ。
(話になんねぇな…)
そう
諦めた時だった。
「じゃあさ、ちょっと一戦交えてみる?」
突然上がった声に
張りつめた空気はぷつりと切れ
途端に時が動き出したかのように辺りの喧騒が耳に届く。
振り返ってみりゃクラスの奴らだ
大方また俺が暴力ふるう気かと
この女を案じて見に来たってとこだろ。
だが、その女の方から言い出した……
「負けたら私はA組を去る、勝ったら認めて欲しい。
ま、相澤先生の了承が要るけどね?」
ニッと笑う様はまるで悪戯中のガキみてぇだ。
昨日とはまた違うが、余裕が見える。
俺が無言のままでいると
女は小首を傾げ、俺を覗きこんだ。
「君みたいな人は、拳を合わせた方が納得しやすいだろうと思ったんだけど、違ったかな…?」
恐らく、
この女は到底的外れな勘違いをしていやがる。
その上で俺がスッキリする方法を見出したって所か?
(コイツ…バカなのか?)
すぐ後ろで見てるクラスの奴らも
突如変わったこの空気に手を出しあぐねてんだろう…
そっちの方が普通だ
俺ですらそう思っちまうぐれぇ、女はカラリと笑った。