第10章 【桜色】二重カルテ
~Sideハイリ~
1,2限後と違って3限後の休み時間は
やや不穏な空気から始まった。
それはメガネを取った瞬間の事
肩を叩かれ振り返ったのに、そこには誰の手もない。
代わりに見えるのは、そこから伸びるブレザーの袖。
葉隠透ちゃんだ。
常時発動型の異形系の“個性”が透明化である透ちゃんは、
まさに透明人間。
故に振り返っても私の視界に映るのは
宙に浮いたように見える制服と、その後ろの席の人の顔。
もしこんな状況で
その後ろの人の顔が不機嫌を露わにしていて
その視線を隠す気もなく自分へと向けいたら
誰だって
肩を叩かれた事も忘れて固まってしまうと思う。
「オイ、モブ女。」
透ちゃんの後ろの席、爆豪勝己くん。
憤り渦巻く彼の目は
間に居るハズの透ちゃんなど知ったことか
とでも言いたげに私に真っ直ぐ向けられた。
「ハイ…。」
ガタリと音をたてた立ち上がった爆豪くんは
ポケットに手を入れたままこちらへと歩み寄ると
引き抜いた手で私の腕を掴んで引き寄せる。
視線同様、静かな声音は
放つ言葉を余計、威圧的なものにしていた。
「ちょいツラ貸せや。」
顔は怖いけれど、昨日と比べれば静かなものだ。
それでも昨日の今日だ、
クラス内の全員が止めようと一歩踏み出したけど
「わかった。」
それを拒むように一言返す。
ひしひしと爆豪くんの憤りが伝わってくる。
そしてそれは、間違いなく自分の所為だと
それはもっともな事だと
そう、思ったから。