第10章 【桜色】二重カルテ
~Sideハイリ~
C組でも思ったけれど
私はこのクラスでも友達に恵まれているようだ。
それは、とてもありがたいことだ。
「ありがとっ! そんな優しい皆にお願いが…」
パンっと顔の前で両手を合わせて
皆の顔を窺い見る。
何事かとキョトンとしている女の子たちに苦笑い向けながら
この場を崩す言葉を零した…。
「ノート…貸して…?」
数秒の間
一斉に笑われちゃったのだけど
これは私にとってはかなり重要な問題だ。
なんせ、
ヒーロー科には普通科には無い、ヒーロー学があるのだから。
決して
ここ数日サボった分のノートが欲しい訳ではない。
…………決して。
「私のでよろしければ、お貸ししますわ。」
ノートと聞いて苦笑いを見せた三奈ちゃんの隣で
八百万さんがくすくす笑いながら申し出てくれた。
彼女の“個性”は創造、生物以外なら何でも作れちゃうらしい。
副委員長と言うだけあって色々気遣ってくれる美人さん。
口に手を添えて笑う様はお嬢様と言った感じで
とても品の良い女の子だ。
「ありがとう! 八百万さん!」
ノートを借りたところでチャイムが鳴った。
静かな足取りで自分の席へ戻る彼女を見送るついでに
その隣の席も視界に収めてしまう。
テキストを机の上に出す焦凍は
私の知ってる彼とは違う、どこか落ち着いた雰囲気を醸し出していて…
つい、
見惚れてしまった。
パチリと目が合って反射的に前を向く。
よく考えたら客観的に彼を見るのは初めてだ。
理不尽なクラス移動だけど、
教室での焦凍を見ることが出来るのは正直、嬉しい。
熱くなる頬を隠すように両手で覆う。
耳も熱い、絶対真っ赤だ。
(これじゃまるで、片思いだ…。)
トクトクと鳴る胸は授業が始まっても治まることは無い。
せっかく古文のノートも借りたのに
私のノートは…焦凍一色だ。