第10章 【桜色】二重カルテ
~Sideハイリ~
――スカァァァン!!
私がくぐるには大きすぎる扉が、高く悲鳴をあげた。
これはどんな異形型、変形型の“個性”の持ち主でも通りやすいようにと設計されたユニバーサルデザイン。
当然、重さも然程なく、ここまで音が鳴るのを聞いたのは私も初めてだ。
が
今の私にとって、そんなこと気に留める事じゃなかった。
注目を浴びてないハズないのに、そちらには目もくれず
ずかずかと入り込み、目的の人物の服を掴む。
昨日とは明らかに様子の違う私に
消太くんは僅かに驚いたように見えた。
「A組に編入だなんて聞いてないっ!!」
バンっと片手で教壇を叩いても
痛いのは私の手と教壇だけ
一瞬だけピクリと上がった眉はすぐに元通り
顔をこちらに向けもしない。
だけど、私はそれなりに満足していた。
昨日あれだけ委縮していた私が
これだけ素で消太くんに突っかかるなんて
一体いつぶりだろう…?
『なりたい自分に、なって良いんだろ?』
何度も口にした言葉だった。
誰よりも耳にした言葉だった。
だけど、言って貰えたのは昨夜が初めてだった。
不思議なものだと思う。
同じ言葉でも
自分で言い聞かせるのと、言って貰えるのとでは
重みが違うんだ。
そんなことすら知らなかった。
人から言われたからなのか、好きな人から言われたからなのか
それはわからない。
だけどお陰で吹っ切れた。
うだうだ悩むのは止めだ。
こんな吹っ切れ方を大人は自暴自棄と呼ぶのかもしれない。
だけど飾ってどうなる?
間違っても転んでも
笑って貰えるのが子供の特権だ。
まだなりたい自分なんて見つけられてない。
でも、なりたくない自分ならある。
周りに言われるがままに
意志も無く動く自分だ。