第10章 【桜色】二重カルテ
~Side轟~
今朝は慌ただしすぎて結局確認取れなかった。
相澤先生と話はついたのか
付き合うことは伏せたままの方が良いのか。
確認取れなかったというのは語弊があるか…
昨夜のハイリに満足していて
あまり気にならねぇ、そんな感じだった。
何より、そんな時間はなかった。
「轟さん、何か良いことでもありまして?」
席に着いて早々に声を掛けられたと思いきや
声の主は隣の席の八百万。
俺同様、推薦入学者なだけに覚えるのは早かった。
その割に話すのはこれが初めてだ。
「いや、特に何もねぇ。」
バレちまう程顔に出てるのか
そうは思っても、話すような内容じゃねぇ。
返した一言には特に突っ込まれることも無く
程なくしてHRが始まった。
「えー…今日は、このクラスに新しいお友達を迎えることになりまし…た。」
今日の担任の第一声は、かなり意味深長なものだった。
まるで転入生でも迎え入れるかのような言葉。
(…………は?)
抱いたのは既視感。
何を飲んでいた訳でもねぇのにむせ返った俺は
左右からの不思議そうな視線を無視し、教壇に立つ担任へと目を向ける。
ザワくつく自分の生徒を気にも留めず
その人物の詳細を一方的に語り始める相澤先生。
違和感満載のその光景に
戸惑う生徒は左右前後で小声を交わし合う。
姿無き、新たなクラスメイト。
ざわつく理由はそこじゃねぇ…
何故名前を伏せて説明を続けているのかは疑問だが
多分俺だけじゃない筈だ
昨日の一件を経て、このクラスの奴らが連想した
その『新しいお友達』。
いつも音をたてず開閉するA組の扉は
その人物の手によって高い音をたてながら勢いよく開かれた。
「ちょっと消太くん!? どういう事っっ!?」