第9章 【桜色】カレカノ依存症
~Sideハイリ~
結構まじめな話をしてる筈なんだ。
だから頭の少し上にある色違いの双眼は
見た事無いくらい真剣だ。
そんな表情すらツボに入ってしまう。
声に出して笑うのは失礼だと思って
肩で笑っていると、焦凍の目が不満そうに細められていく。
話す気あんのか?
言われずとも受け止めた言葉に深く頷き
大きく深呼吸をした。
「うん…まぁね。当たり前の措置なんだけど
そんな“個性”子供に使わせたら危険でしょ?
間違えて毒を投与したらたまったもんじゃないもの。
だから高校に上がるまでは禁止されてて、徹底的に知識を叩きこまれたの。」
たった今汗ばんでいた手で前髪をかき上げながら
込み上げそうになる笑いを抑えるため、息をつく。
リカバリーガールに医学を教えて貰った日々はそれなりに楽しかったけど、懸命に教えてくれる姿を目に映す度
自分の“個性”がどれだけ恐れられているのか痛感せざるを得なかった。
中3の夏にはお墨付きを貰えたけれど、ずっと禁じられていたこの“個性”を人に受け入れてもらえるのかって
こんな“個性”で人を本当に癒せるのかって
そう…怖かったんだ。
こんな話をするだけで緊張する程に…
でも、
初めから抱いていた緊張も
僅かに戻った緊張もあっさり溶かされてしまって
胸に残ったのは……
「話を戻すけど、あの飴は単なる栄養補助食品。
ゼリー状のとかあるでしょ? あれと同じよ。
つまりっ――」
……あの日の保健室で
カサリと落ちた飴の包み紙を見た瞬間に抱いた
小さな驚きと大きな喜びだけ。
「―――君は私の初めての患者さん…ってこと。
知らずに食べたんだろうけど
ずっと危険視されてきた“個性”だったから
食べてくれたことが嬉しかった……。」
ほぅ…と思わず息をつく。
それは今の胸の内を表すかのような、温かなものだった。