第9章 【桜色】カレカノ依存症
~Side轟~
同じ時を思い出しているのに
それぞれの印象が異なるというのは面白い。
寝顔に対して返って来たのは
あの日一方的に押し付けられた飴。
不思議な味だったのを思い出して
口にしたのは素朴な疑問だった。
「そういや…あの飴何だったんだ?」
別になんて事無い疑問だ。
その辺で買ったモンでも
自分の“個性”で作ったモンでも
返事が無くたって良かった。
ピクリと伸びた背からは緊張が伝わってきた。
薄闇の中、弧を描いていた口元から放たれたのは
予想外の
だが、ずっと期待していた言葉だ。
「ちょっと…話逸れちゃうけど聞いてくれる?」
街頭の光が差し込んでいる所為か
暗がりに慣れただけなのか
こんな暗さでもはっきりと見えるその表情が
今から何を話さんとしているのかを、ありありと告げる。
『そじゃなくて、自分の“個性”が治癒じゃないってことは
自分が一番よくわかってるってだけだよ。』
『治癒じゃない…じゃなくて
治癒だけじゃない…だろ?』
『同じでしょ? どっちも中途半端じゃない…っ。
ちよちゃんや、お母さんと違って欠点だらけじゃない…っ!』
今日盗み聞きしてしまった
ハイリとリカバリーガールの会話、
あの悲痛な声を思い出す。
(止めてやった方がいいのかもしれねぇ。)
そう思ったのは確かだってのに
情けねぇ事に欲の方がでかい。
「ああ…。」
俺が頷くと
ハイリは表情を見せまいとしているのか
うつぶせになり、枕に顔を押しつけながら話し始めた。
「実は私、高校に上がるまで
特定の人以外への“個性”の使用を禁止されててさ…」