第9章 【桜色】カレカノ依存症
~Side轟~
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頬を羽毛で撫でられている様な感覚に薄らと瞼を上げる。
頬をくすぐるものの正体なんて問うまでもねぇ
音もたてずに笑うと暗がりの中で目が合った。
「何してんだ?」
「寝顔観察…かな?」
「そりゃ立場逆転だな。」
頬に落ちるキスと共に吐息が触れる。
余韻に浸る間もなく眠りについてしまった分
時間がたったであろう今でも、どこか夢見心地のままだ。
暗い部屋に差し込むのは
未だ開いているカーテンの向こう側からの街頭の明かり。
いつの間にか随分寝てしまっていた
時計を見ずともわかるのは
集合住宅らしからぬ辺りの静けさのためだ。
(俺は寝るつもりなかったんだがな…。)
眠った時間を惜しんでいると
耳元に近付く気配を感じた。
「ね、立場逆転って?」
静穏を壊さないような微かな声も
こんな距離で囁かれれば直に響いてるみてぇだ。
いつの間にか掛けられていた布団の中で
ハイリの背に手を回す。
一つ笑うと悪戯な上目遣いが返事を急く様に寄せられた。
「初めて見たお前の顔が寝顔だったせいか
印象が強ぇ…。」
言葉にすると尚更変な出会い方だ。
ハイリは「あぁ、飴をあげた時の…?」なんて言いながら頬を摺り寄せてくる。
どうやらコイツは随分な甘えたらしい。
甘えられているという実感。
それでも甘えている本人より、
俺の方が何倍も満たされているんだと思う。