第9章 【桜色】カレカノ依存症
~Sideハイリ~
くたりと覆い被さって来た重さも、体温もとても心地いい。
まだ落ち着かない呼吸を整えながら
私より広い背中を撫でた。
右頬に掛かる髪は私と違ってサラサラのストレートだ。
その白い髪をツンと引くと
僅かに顔を上げた焦凍の目がこちらを向いた。
「大丈夫か?」
開口一番そんなことを言うものだから
なんだか笑ってしまう。
やっぱり優しい人だ。
「ん、ヘーキ。」
とても嬉しくて頬にキスをすると
腕が首の後ろに差し込まれ抱き寄せられた。
甘えるように摺り寄せられた頬と、耳をかすめた吐息混じりの声
「可愛かった。」
囁かれた言葉に頬が再び熱を持つ。
徐々に理性が戻る頭には
先程までの記憶はちゃんと残ってる。
どれだけ自分が乱れていたのか
どれ程はしたない事を口にしたのか
もちろん恥ずかしい。
でも幸福感の方が勝っているのか
今の私は素直に言葉を受け止めてしまったようだ。
「それは―…嬉しい、な。」
流石に目を見て返すことは出来なかった。
恥ずかしいのと甘えたいのとが混ざり合って
目の前の固い胸に顔を埋める。
普段なら絶対「そう言うこと言わないで」とか言うんだろう。
自分でそんな普段の自分を可愛げ無いなど思いながら
クスリと笑った。
夕日の陰った4月の部屋の中は、まだ肌寒いはずなのに
彼のお陰で温かい。
(ご飯を作らなきゃ…。)
当初の目的は思い出したのに
もう少し、もう少し…と引き延ばしているうちに
甘いまどろみがゆったりと襲ってくる。
「寝ていいぞ…?」
「んー…ごはん…。」
「いいから、寝ろ。」
眠りにいざなうように両目を大きな手の平で覆われて
安息の闇に身を浸す。
「無理させてごめんな。」
頬に触れる温もりを感じながら
その温もりへと手を伸ばす
この人無しじゃもう、
生きていけないんじゃないか…?
そんなことを考えながら
私はゆっくりと夢の中へと引き込まれていった。