第2章 【桜色】先天性世話焼き
~Side轟~
あの後―――
脱兎のごとく去っていった背を呆気にとられながら見送った。
自分の意思と関係なく握りしめられた手を開くと、そこにあったのは見たこともない包みに入った飴。
足元に落ちたメガネはそのままだ。
飴についてもメガネについても
疑問は余りあるほどだった。
(なんで飴なんだ? いや、それより
メガネが無くてアイツは大丈夫なのか?)
貰ったばかりの飴を口に放りながら首を傾げる。
メガネが無くても生活出来るレベルの視力ならいいが
それでも学校は厳しいんじゃねぇか?
今日は授業無いにせよ……。
念のためそのメガネのレンズ越しにホーム内を見渡すと
どうやら度は入ってないらしい。
(おしゃれ……か?)
女の趣味はわからねぇ。
ならば考えても答えなど出るはずもない。
随分綺麗なヤツだったしそのうち人の口端に上るだろう。
その時にでも渡すか。
そう思ってゲートをくぐる頃には朝から抱えていたクソ親父への苛立ちは治まっていた。
なのに
ゲートを抜けて速攻目に付いた人だかり。
こんなところで寝るか?
いや…立ったまま電車の中で寝る位だ、こいつならあり得るか。
頭では呆れてるのに顔は笑っていた。
『すみません、知り合いなんで……。』
見物人に断りを入れ、ここまで連れて来たのが始業前。
こいつの顔を見た途端のリカバリーガールの一言「またかい!」から、これは日常茶飯事だと言う事を理解した。
「――――で、それから1-Aの教室行って
個性把握テストの後ホームルームを終えて、気になって来た。」
「なんか…ホント…ごめんなさい……。」
今日の流れをざっくり説明するにつれ
顔を真っ赤にして小さくなっていくのは見てて面白い。
自分は無口だと認識していただけに、
よくここまで饒舌になれるもんだと内心笑った。