第8章 【桜色】パニック &ぱにっくシンドローム
~Sideハイリ~
止む無く飲み込んだ反論だったけど
それでも叫んで呼び止めた現状は変わらない…。
何事かとこちらを見ている3人から目を逸らしながら
それらしい用事を考える。
自慢じゃないけど、私はこういう咄嗟の嘘は天才的に下手だと思うんだ。
今もまた、ロクなのが思いつかなかった。
「えー…と、朝、HR…
あれからどうなったか教えて貰えませんか?」
「…………ああ
昨日の戦闘訓練のV見た感想と、委員長決めだったな。」
轟くんの軽い間が辛い。
面識がほとんどない設定のせいか
冷ややかな目も辛い。
「そか…で、委員長は誰が…?」
「ああ、アイツ――…緑谷だ。」
恥ずかしい程のわざとらしい会話は勿論3人を誤魔化す為のものだ。
私たちを注視していたであろう3人は
緑谷くんを指さされ、目を逸らしそそくさと去って行く。
もう誤魔化す必要はないのに
轟くんはこのやり取りをお気に召したようで…
「楠梨、他にもあるか? 」
ガヤガヤと賑わいを取り戻した食堂に戻る気にもなれず、ガラス張りの壁に手を付けて深呼吸する。
「いえ、何もないです。轟くん。」
嫌味を返すつもりで付け足した名前だったけど
言ってから気付いた。
(私はいつも轟くんって呼んでるから
嫌味になってないわ……。)
窓ガラスの向こう側、植えられた木々の先に見えるのは
数台のパトカーと撤退し始めた報道陣。
そして「バッド マスコミュニケイション!!!」と悪態をつくマイクの後ろ姿。
成程、教師陣は対処に追われていたって事か。
(あの人たちのせいだっっ!!)
握りしめた拳で綺麗に磨かれた窓を叩く。
もはや自業自得なんて言葉は頭の中から抹消され
理不尽な怒りを彼らにぶつける事しか出来なかった。