第8章 【桜色】パニック &ぱにっくシンドローム
~Sideハイリ~
「大丈ーーーーーー夫!!」
それは短く、端的で、最適な言葉。
そして大胆かつ短簡な姿勢だった。
出入口を示す「EXIT」の誘導灯の上に踏ん張り
壁を伝うパイプに右手を掛けたそのポーズ。
わかり易過ぎるその一言と姿勢に一同が顔を上げた。
「ただのマスコミです!
なにもパニックになることはありません、大丈ー夫!!
ここは雄英!!
最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!!」
まるで非常口の標識だ。
我先に出ようとしていた個々は歩を止め
鮨詰め状態だった空間も次第に緩み始める。
やがてパトカーのサイレンも聞こえてくる頃には
穏やかな人の流れが出来上がっていた。
「落ち着いた…かな?」
「だな。」
ホッと一息ついて
まだ掴んだままの轟くんの腕を離す。
なのに、離れ際に肩を引き寄せられたかと思ったら
フッと耳元で笑う気配がして
一瞬、こめかみに柔らかいものが触れた。
(へ………?)
それを確認するように手の平を当てる。
見上げた口元は楽し気に弧を描いていた。
「続きは今夜、『人の居ない所で』な?」
なんだか飯田くんのインパクトが強すぎて
私はすっかり忘れていたけれど
彼はどうやら忘れていなかったようだ。
「何の話?」と惚けるのも一つの手。
しかし耳の端まで熱くなっている今の私が惚けたところで、きっと意味は無い。
念を押すように肩を叩き、立ち去ろうとする背中に
慌てて声を掛ける。
「ちょ、ちょっと待ってッ!」
「何か用か?『楠梨』」
振り返った目はすぐさま彼の後方の3名を指していた。
降りたばかりの飯田くん、そして緑谷くんとお茶子ちゃんだ。
「バラす覚悟があるなら、今反論を聞くが?」
そう言いたいのだろう……。
(~~~~~ッッ!!)
全くもって意地悪な人だ。