第2章 キスとからあげ
「コーチ、今日ソワソワしっぱなしじゃないですか?」
「や、…んなんじゃねぇ…」
と見栄を切ったが、ぶっちゃけソワソワもする。
るるにここでコーチしているのを言い忘れていた。
もし見つかって大声で名前を叫ばれちゃあたまったもんじゃない。
容疑者の仲間入りだ。
アイツは帰宅部らしいが、何かの手違いで見つかってはまずい。
部活を終わらせてさっさと帰りたい…。
体育館の片付けを手伝うが、俺がイライラしだしたのを見かねて澤村がこっそり帰してくれた。
(アイツには今度何か奢ってやろう…)
そう思いながら車を取りに回ると、夕日に髪を染めてるるが立っていた。
「あ、やっぱり繋心さん」
語尾にハートでもついてんのか、甘えた声でるるは声かけてきた。
「あ、じゃねーよ!なんでここにいんだよ!」
「クラスの子が繋心さんが学校でコーチしてるってこっそり聞いたので。
じゃあ夕飯の献立聞くの忘れちゃったし、待ってようかなって。
そしたらお店にあった車を見つけたので待ち伏せしちゃいました」
にこりと笑うと彼女は懐から俺が渡した金をちらっと見せた。
「あ、ああ、そうだな…なんか買いに行くか」
昨日の夜出会ったばかりだというのに、るるは俺のペースを乱すのがやけに上手いと思う。
「バレー部のコーチなんですか?」
「ああ」
「私、清水さんと同じクラスなんです。
他の部員さんにはバレないように気を付けますね?」
「察しがいいこと…。
煙草、吸っていいか?」
「はい、どーぞ」
発車させるとすぐに火をつけ、ふーっと煙を充満させていく。
助手席に座ったるるの横顔はやけに色っぽく、つい昨日のアレを思い出す。
私服で会った時、そういや高校生だなんて思わなかった。
大人びていて、どこか余裕で、そして色っぽい。
俺が思春期なら間違いなく放っておかねぇ。
「お前……モテんだろ?」
「え!?な、なんでですか?」
ぽかーんとした顔でこちらを見てくる。
余裕なのにたまにわざとかってくらい見せてくる隙。
ほわんとした柔らかい雰囲気。
「あー…、そういうの」
低く返答すると、首を傾げてこちらを見上げる。
なんとなく、許してもらえそうな気がして、膝に置かれている手を握った。
はっと驚いたようだが、細い指が握り返してくる。
顔がとんでもなく熱い。
今が夕方でよかった。