第98章 【番外編】おはよう
同棲してから、特に激しかった次の日の朝は、いつも美味しそうな匂いで目が覚める。
今日はコーンスープと、バターが焼ける香ばしいにおいがする。
(ん、おいしそう…)
疲れた身体にはその香りはかなり魅力的だった。
私が本当は作ってあげたかったのに、とどこかで思いながら、近くに用意されてた繋心さんの羽織ものを身に付け、そっと台所を覗きこんだ。
リビングのカレンダーを見ると赤丸がついている。
どうやらお休みらしい。
「おはようございます…!」
「はよ」
換気扇の近くで煙草を吸いながら、短く返事された。
「すみません、起こしてくれればよかったのに…」
「たまには寝坊くらいしろ」
にっと笑うように言われ、オーブンから焼きたてのパンが出てくる。
なんでも出来てしまう恋人に、ちょっとだけ、複雑な気持ちになる。
「おいしそう…」
「粗熱取ったら食えるぞ、その間に…」
繋心さんは何かを言いかけて私を見てから急に黙った。
どうしたのかと首を傾げると、近くまで来て額を撫でられる。
「なんだその格好」
「あ、えっと…近くにあったので…用意してくれてたんですよね…?」
「中になんか着るだろ普通」
そっと向き合うように座らせると、冷たくなった太ももを触られる。
昨夜の余韻が思い出され、ん、と小さく声が出てしまった。
「慌てて着ちゃいました…もう朝ご飯出来そうだったので…」
「俺がやりたくてやってんだから気にすんな」
ちゅ、と音を立てて唇を食まれる。
これだから甘えてしまう。
好きな気持ちが抑えられず、こちらも仕返しのようにそうする。