第97章 【番外編】マリーゴールド
いつも通りかかる公園に寄ると、見知った人影があった。
「繋心さん…!」
なんとなく安心感のあるその影に急いで近付くと、おう、と低い声で気まずそうに返事してくれる。
待っててくれたんだと思うと、その不器用なリアクションですら嬉しい。
まだ夜になると寒い。
酔いもあるのだろうけど、顔回りが少し赤らんでいる。
緩んだ襟元の薄手のマフラーを結い直してあげると、小さくお礼を言われた。
(結婚なんて人生の墓場よ)
さっき聞いていた話が反芻する。
悲しい。
やっと同じスタートラインに立てるのに。
私もいつかは、彼がうとましく思えてしまうのだろうか。
「あの」
「あのさ」
「………」
「………」
「あ、先にどうぞ……」
「いや、その…」
二人で顔を見合わせて小さく笑う。
さっきまでの不安が消える。
杞憂だったようだ。
実は、と繋心さんがぽつぽつと話した言葉は、さっきの私が聞いた話ととてもよく似ていた。
そうか、相手もいつかそういう風に変わってしまうのか、とどこか納得してしまった。
言いたいことも言えないくらい忙しくなっていく日常で、きっとどこかで乖離があって。
少し寂しいけれど、仕方ないところもあるかもしれない。
「でも、私は変わらないですから」
相手に言う、というよりは自分に言い聞かせる気持ちだった。
それでもわかってくれたように頷いてくれる。
安心感がぐっと強まる。
「気が滅入る酒だったなー……家で飲み直すか!」
「いいですね…私は寒いから甘酒にします」
「酔えねーじゃねーか」
「こういうのは気分次第ですよ!」
いつも通り繋いだ手は、いつも通り少し乾燥していた。
小さな変わらない部分を見付けると、嬉しくなる。
もうすぐ同じスタートライン。