第93章 【番外編】大掃除
【世界で一番大切な日だから】
いい年になってから、誕生日で喜べるものでもない。
しかし、母にとってはいつまでも喜ばしい日であるように、恋人にとってもそういう日らしい。
「おめでとうございます」
いつものように語尾にハートマークを付けながら、彼女はそのしなやかな指先でテーブルを彩った。
「こっちがチョコレートシフォン、これがショートケーキ、これがザバイオーネクリームと苺のタルト、あっちが……」
「いやいやいやいや待て」
朝からオーブン、レンジ、炊飯器をフル活用して彼女が用意していたのは、ケーキ屋並のバリエーション取り揃えられたケーキだった。
家中甘ったるい香りが充満してしまい、居心地が悪い。
「そんなに、食えねえぞ」
「そうですよね…すごく浮かれてました…」
るるは困ったように笑うと、少しずつ取り分けて盛ってくれる。
ネットのニュースで見たジャンボパフェみたいな物が皿に出来上がっていく。
「美味い…」
「よかったです」
「こんなオッサンの誕生日が嬉しいのか?」
「当たり前じゃないですか…!
繋心さんは、私の全てです。
生まれてきてくれた、すごくすごく、大切な日なんです。
…また、年齢差が出来てしまいましたね…。
私は、ずっと、追いかけていきますから。
だから、少し子供だったり、甘えただったり、理解してもらえない所もたくさんあると思います。
その時は、優しく見守ってくださいね」