第91章 【番外編】浸食
今までソレは、怖いものだと思っていた。
乱暴にされて、剥がされて、傷つけられて、最後には床に投げ棄てられて。
幸せなものだなんて、到底私には理解できなかった。
購買のパンを食べながら、ぼんやりとしていた昼休み。
近くのグループの女の子達が大きな声で話している。
「昨日やっと……シちゃった…!」
「えー!おめでとうー!」
「どうだった!?」
「やっぱり痛かったけど…、なんていうか、幸せー!みたいな!?」
きゃー、なんて黄色い声が一際大きくなる。
羨ましい、とか様々な一言の感想が述べられ、本人は恥ずかしそうに顔を赤らめ、両手で覆った。
(しあわせ、か……)
焼きそばパンのからしが、ちょっといつもよりきつく感じる。
そんなにいいものでもない、と頭の片隅で思ってしまった。
その片鱗で思い出すのは、やっぱり徹さんだった。
痛いのに無理やり引き摺り出されるその感覚。
次に何をされるかわからない恐怖。
他の女の子ならさぞ嬉しかっただろう。
私は残念ながら、そうではなかった。
苺牛乳のパックを潰して、最後にお決まりのチョコを食べて、何もなかったかのように教室に戻った。