第90章 【番外編】皮肉なことだ
皆食い付くようにその話を聞き、口々にいいなあー!と羨望の言葉で部屋が埋め尽くされた。
トイレに立ち上がる者もいた。
皆が寝静まっても、なかなか眠れなかった。
自分の知らないるるを他人が知っているということに急にモヤモヤしてしまった。
どれだけ想ってても、もう手に入らない。
コンプレックスが産んだコンプレックス。
もう振り向きもしてくれないだろう。
「悔しいだろ」
岩ちゃんは静かに言う。
「何が」
「わかってんだろ」
「いいよもう、終わったことだから。
早く拐ってけばいーじゃん」
「いや、俺は連れてけねえ」
ふっと、気になって横の顔を見る。
「アイツは、もっと幸せに出来るヤツじゃねえと」
ああ、と言いながら笑ってしまった。
それですべてわかった。
岩ちゃんのは、恋じゃない。
それは、崇拝にも近いナニかだった。
どん底から手を差し伸べても決して届かない所にいると。
それを汚して弄んでいる俺のことを、さぞ嫌がっているだろうと。
「俺から、離れるわけ?」
「いや、むしろ感謝してる。
あそこまで綺麗なのはある意味……」
俺のお陰、か。
なんていう皮肉だろうか。
彼もまた、堕ちていた。