第86章 【番外編】優しくして
綺麗にされて、ぼんやりした視界で部屋を見渡した。
少しだけ、スッキリした気持ちにはなっている。
テーブルには、まだ湯気の立ってるココアが置いてあった。
「あ、これ……」
「あとこれな、チョコ」
「……ありがとうございます…」
「ストレス解消には、激しい運動が一番だ」
「…!!!」
さっきまでの事を思い出し、顔が一気に熱くなった。
ライターの音が微かに聞こえ、いつもの煙草のにおいがした。
窓が開けられると、冷たい風と相まって懐かしい気持ちにしてくれる。
「それと、甘いのもいい」
「……はい」
ココアを一口飲み、隣で煙を燻らせる横顔をそっと見つめた。
「あっ!」
「あ?」
「さ、最後に、やさしく、キスして、ほしいです…」
さっきまでは、あんなだったから。
恥ずかしいけれど、どうしても譲れない気持ちだった。
何を言われるでもなく、煙たいにおいをまとった唇が重ねられ、本当に優しく暖かいキスをされた。
舌すら重ねず、ただ優しく、唇を触れさせる。
出逢った頃から、変わらない。
においも仕草も噛み締めるように、目を閉じた。
「……も、も一回…シませんか?」
「シねえよ」