第84章 【番外編】狼なんて怖くない
「トリックオアトリート」
「……?」
「るる先輩、今年のハロウィン参加するんですか?」
「ハロウィン…?」
「商店街で仮装してお菓子貰うやつ!」
るるが囲まれて変な話を振られている。
行事ごとに兎に角疎いアイツが、そんなものあることも知らぬだろう。
「子供のイベントじゃないの?」
「商店街のパレードは誰でも参加出来るんですよ!」
「ぱれーど?」
「ソイツには率直に言わねえと通用しねえぞ」
助太刀するつもりもなかったが、あまりにもゴールの見えないその会話に思わず参加してしまった。
「るる先輩のコスプレが見たいです!」
「見たいっす!!」
「……ええ…?私じゃない方がいいよ…」
遠慮がちに笑いながら両手をふる。
謙虚な姿勢がまたコイツのいいところである。
「それで?先輩、お菓子は?」
「あー、さっき、チョコ食べちゃった…」
菓子をねだる月島が相当面白かったのか、くすくすと笑いながら返事した。
「じゃあ先輩に悪戯だ」
「…っ!?」
「おい」
馴れ馴れしい態度にイラつき、らしからぬ態度を向けてしまった。
声を掛けてから後悔した。
「まあまあコーチ。別に悪いようにはしませんよ」
悪いようにはしない顔には一切見えない。
月島は鞄から飴を取り出すと、るるの手のひらに渡した。
「飴…?」
「逆にお菓子を渡す悪戯」
「……ありがとう」
なんの躊躇もなく、封を開け、一口で食べる。
「あ、なんだろ、薔薇の香り…?」
不思議そうに口の中で転がし、そう言う。
「るる先輩何も学んでないですね。
知らない人からお菓子貰っちゃダメって」
「…っ!!月島くんは、知らなくないもん…!」
むっと俺が睨んだのを察してか、るるは俺に言い訳する。
「顔見知りが一番あぶねえぞ」
「……っ」
顔を赤くし、大丈夫です!と叫んで、彼女は自分の持ち場に戻った。
怒ったところで、可愛いだけなのに、と悪態をつくようにその姿を見送り、後半の練習にうつった。