第70章 【番外編】夏の夜の夢2
「うぐっ!」
「きゃっ!」
声ですぐにわかったが、ほぼ全裸の男が浴室の前に立っているというのは、女としてはあまりに危機を感じる。
さすがのわたしも。
徹さんはそのまま赤いものを流しながらフローリングに横たわる。
「ご、ごめんね!?大丈夫!?」
声を掛けても返事がない。
しかもほぼ全裸。
さすがにそれを放置しておくわけにもいかない。
冷静じゃなかった私は、自分の見た目がどうだったかなんて忘れ、慌ててリビングの大きめの座布団を引き、そこまで徹さんを運ぼうとした。
ただ、体格差があまりにある。
「重い……」
何故運動部はみな大きいのか…!?
それは長年私をあらゆる意味で苦しめた恨みもある。
どのくらい時間がかかったかわからないが、漸く私はミッションを達成した。
それでも風邪を引くかもしれないと思い、慌てて乾いたタオルを取りに行き、綺麗に拭いてあげた。
呼吸、脈もあることを確認して、いずれ目を覚ますだろうと、適当に流れた血を拭き取り、一息ついた。
バイトの疲れ、帰り道の疲れ、そして今の一連の流れ……。
今朝はお見送りのために4時半に起きた。
お弁当を作って、家事をして、そして昼から夕方までのシフトをこなした。
だからかもしれない。
それはあまりにも突然訪れた眠気。
まるで、今回の徹さんのような。
つい、うとうととしてしまった。
ひんやりと、エアコンがきいた部屋。
眠ってしまった私は、暖を求めるように、近くにいた彼の身体に、自分の身を寄せる。
懐かしいにおいがする。
つい先日まで、嫌悪感しかなかった。
でも、今は、ちょっとだけ安心する……。
偶然は重なり重なる。
堂々巡り。