第62章 【番外編】些細な幸せ
「妬くほど?」
「だ、だって!みんな私より凄く綺麗だし可愛いし…」
店員におかわりを頼んだ分が横に置かれ、ダスターとおしぼりを受け取った。
テキストと服は無事なようだ。
「こ………こんなドジもしないだろうし………」
るるさんは深いため息を吐いて、テーブルを綺麗に片付ける。
「俺は、こんな可愛い人、他に知らないけど……」
言ってから、何口説いてるんだと我に還る。
「うっ……ありがと……」
「ごめん…!!」
何回かその長い睫毛を揺らし、目線を泳がせる。
その姿すら、綺麗だと思う。
「ううん、ありがとう、ほんとに嬉しいよ…」
俺なら、こんな不安にさせないのに。
とか。
そんな事を言いそうになりながら、そのあまりにも魅力的な彼女の姿を目に焼き付ける。
高校の頃にあったような、演技のような余裕や、無駄に高かった防壁のようなものは感じない。
素の彼女とやっと会話できていると、そう思った。
きっとそれは、相手のお陰だろう。
尊敬しているし、とても敵わないと今でも充分に感じてはいるが、心のどこかでは、悔しさがまだ痼のように残っている。
それでも、今の彼女を造り上げたのはその人でしかない。
どれだけ時間を掛けてここまで愛し、対話し、あの孤高に咲く花を身近に育てたのか。
一つ一つを聞きたいほどだ。
(知ってしまった、っていう部分もあるけども…)
「るるさんも人のこと言えないと思うけどなー」
「私はかわいくないし…」
「例えば、今とか」
「…っ!」
るるさんは、はっとした表情をした。
今、自分はどれだけ意地悪く笑っているだろう。
「るるさんが例え自分に自信がなかったとしても、そう思わない人だっているわけだし」
「…ぐ…」
「無防備」
「…ううっ……」
コーヒーのおまけについてくるクッキーがほろほろと口のなかで溶ける。
それと同時に彼女は項垂れる。
こうして、もう会わないと言われて、俺達のこの友達のような関係も終わるんだろうか。
長くてツラい片想いだったなぁーなんて、苦いコーヒーを飲みながら思う。