第54章 【番外編】しづ心なく花の散るらむ
ご丁寧に朝食に生卵2つと温泉卵が付いてきた。
冷蔵庫を開ければ、冷えたビールと栄養ドリンク。
どこまでも気配りの出来たこの旅館は、レビューを付けるとなれば星5つで間違いないだろう。
「繋心さん、朝から鰻のひつまぶしですよ…!」
「お、おう……味わえ……」
ついで、俺の夕食だけ鍋がすっぽんだったのが凄く気になっていた。
向かいで嬉しそうに食っている奴は気付いてなかったようだが。
それにしてもるるが物足りなそうな顔をしていたのを思い出す。
一体何があそこまでそうさせたのだろうか。
「身体、大丈夫か?」
やんわりと聞いたが、よくわからない、という顔をする。
「あ!!
だ、大丈夫です…、すみません、なんか、温泉入ってから……。
景色が綺麗で浮かれちゃったのかな…?」
恥ずかしそうに鰻に出汁を乗せていく。
白い肌が色付くのが、いつもより艶やかに見えるのは、まさしく雰囲気のせいなんだろうか?
やれやれと荷物をまとめ、宿を後にした。
「そいえば」
と帰宅してアパートに仕掛けておいた安物の防犯カメラをテレビに繋げた。
留守と知らない誰かが写るだろうかと期待した。
そこにはバッチリ一人の怪しい人影が。
「コイツ、バイト先の新入りじゃね?」
「あ、ほんとだぁ…」
「面倒なのに目ぇ付けられたなぁ」
そして早送りをしていると、もう一人の長身の影が浮かぶ。
「げ……」
「徹さん……」
るるの義兄、及川。
「やだぁー、徹さん気持ち悪い……」
相変わらず辛辣な言葉を出してくる。
が、長身はストーカー野郎に向かうと、ビンタをかましてずるずると引き摺ってどこかに消えていった。
「お、いいとこあんじゃん、及川!」
「ほんとだ……」
それにしても、アイツはなんであそこにいたんだろうか。
一瞬薄気味悪く感じる。
『るる!ストーカー被害だなんて聞いてないよ!なんで真っ先に俺に相談しな…』
るるは無言で電話を切った。
「真っ先に相談する人がいるからですよね?」
と笑った彼女は、何もない俺に自信を付けさせてくれる。
早く幸せにしてやらないとな、と今までより少しだけ覚悟を決めた。