第53章 【番外編】深層心理
俺も腕を伸ばして彼女の細い身体を抱き寄せる。
いつもの花の香りが広がった。
ぎゅっと、顔に当たる柔らかい膨らみがひしゃげる。
いい年齢なのに、思春期みたいにそれにどきっとする。
「なにそれ、ずるいです…」
拗ねたような口調が可愛い。
どっちがずるいか、なんて、そんな決まらない言い合いをする気にもなれない。
「次から、ちゃんと、言ってください。
私の予定は、繋心さんの為にありますから…」
「…わかった」
互いにどちらから、ともなく、仲直りに口付ける。
段々と深くしていくと、音をすぐに上げ始めた。
「んっ…ふぁ……」
柔らかな髪に触れながら、ゆっくり角度を変えていく。
息をしようと顔をそらすのを逃がさない。
「んんん…っ」
舌を絡め、溢れそうな唾液を啜ると、甘い甲高い声が響く。
そんな、彼女が可愛い。
何度となく思う。
一つの仕草も、そうやって直向きに俺を追いかける姿も、キス一つで呆気なく迎える姿も、何もかもが。
手伝ってほしいと素直に言えないのは、こちらのせいかもしれない。
この、あまりにも可愛い女を、独占して人に見せないようにしたいという、深層心理なのかもしれない。
俺は改めて、肝に銘じた。
女は雇わない。
相談する。
でもなるたけ、人に見せない。