第51章 【番外編】火傷
「いらっしゃいませー」
「あれ?るる先輩!」
「とうとう、入籍を…!?」
「してないよ!まだだよ!」
夕方の店先ががやがやとうるさい。
新聞を被って居眠りしていた頭がぼんやりと起こされる。
「おう、なんだ、さっさと売り上げに貢献しやがれ」
「なんだー、コーチと結婚したのかと思った!!」
「例の火傷で手伝って貰ってたんだ」
「と、いう言い訳?」
月島が眼鏡からじっと嫌な視線を向けてくる。
「将来逃げられないように今のうちにこの辺の常連には顔を覚えさせておいて、逃げ道を塞いでいるとか、そういうことじゃないんですね?」
(そんな風に思われてたのかよ…)
「違うよ!どちらかというと、私が逃げ道を塞いでいる感じ。ね?」
(それはそれでこえー…)
「先輩が言うと、エグい」
「そ、そうかな…?」
るるは困ったように笑った。
「既成事実にした方が効果的じゃないですか?」
月島の更にエグい案に思わず声を上げる。
「おい!」
「ダメだよ!」
と、同時に、隣にいたるるも声を上げる。
「ダメ。
あと10年は、繋心さんを独り占めしたいし、こうして甲斐甲斐しくお世話焼きたいの!」
(…可愛い……)
なんだ、同じ考えか…と嬉しくなる。
思わず赤面すると、教え子達も珍しく羨望という表情でるるを見る。
「本当は私がご飯を一口ずつあげたいし、お風呂で身体も髪も私が洗ってあげたいし、えっちも…」
「るるさん!?ストップ!!」
一気に場の空気が冷えた。
末恐ろしいことを口走ったこの恐ろしくも可愛い恋人を改めて見ると、反省はしていなかった。
「また、火傷してくれたら、お世話出来るんですよね…」
笑顔でそう言うと、走って店に戻って行った。
「………そんなわけで、俺がもし学校に行かなくなったら、察してくれ……」
「コーチ…いつか腕折られますよあれ…!」
「こわいこわいこわい!!」
冗談か本当かはわからないが、彼女のなにかに火をつけてしまったことは間違いないらしい。
それも、火傷が出来るほどの。