第50章 【番外編】世界中のショコラティエに謝れ
バレンタインデー。
徹さんが、青い顔をしながらチョコを捨てている記憶しかない日。
まさかそんな可愛らしいイベントだったとは、つい最近知った。
「るるちゃんは彼氏に何あげるの?」
「なにが?」
「バレンタインデーだよ」
「何?それ?」
「……え?」
全員が全員ぽかーんとした表情をする。
私もそんな顔をしているだろう。
「あ!あの!チョコ捨てる日のことね!」
「捨てちゃうの…?」
「むごい……」
私の中での解釈と一般的な解釈の誤差はうまらないものだった。
逆に、なんてむごいことをしてたんだあの人は…と少し怒りすら覚えた。
「繋心さんはそんなひどいことしないですよね!?」
焼き立てのガトーショコラを出しながら私は詰め寄った。
乙女の精一杯の告白をなんだと思っていたんだと、心外だと、いない義理の兄を思い浮かべて激怒した。
「まあ、俺は…及川と違って貰えるか否かのラインにすら立ててないからな…。
アイツ、えげつない量貰ってそうだよな」
「段ボール数箱くらいですよ」
「……くらい……その量のチョコ食ったらもう跳べねえな…」
「うん、まあ、確かに……」
少し落ち着いてケーキを切り分ける。
ホカホカと湯気が出て、ココアのいい香りがする。
上手く焼けたようだ。