第49章 【番外編】煙の奥の奥
「影山!ほら、今日のるるさんは…」
「前も、言うなって、言っただろ、この、ボゲエ!!」
「…痛っっ!!」
大学生になったるるさんは、更に綺麗になった。
何か吹っ切れたようで、人に対しての接し方も大分変わったように思う。
(やっぱり…)
ただ一つ心残りなのは、この始まりもないまま終わってしまった小さな恋心だった。
それは、及川さんのせいで、決して綺麗な物ではないけれど、俺の大切な一部分でもある。
年末最後の烏養さんの試合を見る横顔は、凄く嬉しそうで、つい見惚れてしまった。
及川さんの時は、こんなことはなかった。
何故なら、終始冷たい視線で館内を見渡しており、話しかけられる空気では到底なかった。
あの冷たいるるさんも、今思えば、かなり惹かれていた…と、思う。
小柄なその身体が隣に腰掛け、笑顔を見せる。
俺の知っている今までのるるさんからは考えられないくらい、それは、綺麗だった。
「影山くん…!すごかったね!」
名前を呼ばれると相変わらず緊張してしまう。
その柔らかい声は、全く変わらない。
「…っすね…」
「全然…試合を観ていなかったの……」
「……はぁ?」
るるさんが一瞬何を言っているのかわからなかった。
「だ、だからね、繋心さんしか見てなかったから…試合、よくわからなかったの…」
「……」
「この後、ご飯行くじゃない?
もし何か突っ込まれたら、影山くんフォローしてね!
他の人には秘密ね…?」
恥ずかしそうに早口で俺にそう言うと、るるさんは、しー、という仕草をした。
「かわいい…」
思わず、心の声が漏れる。
「…っ!!
影山くんに言われると、照れるね……」
「ぁ、違います!!今のは……っその……」
るるさんは鞄を漁ると、はい、と四角い餅入りのチョコを2つ3つ俺の手に乗せてきた。
「おだちん…」
「……す…」
よくわからないが、褒めた分と、この後のフォロー分らしい。