第44章 【番外編】鵺
「おやすみなさい、寝ましょう?」
「ああ」
なんて言ったのに、悪戯っぽく笑う口をあっさり塞ぐ。
深く、抉るように。
噛みつくように。
「…っふ、ぁ……」
くちゅ、とイヤらしい音が室内に反響する。
酸素を吸おうと顔を背けようとするるるを押さえつけて。
「…んん」
銀糸が切れる。
呼吸を整えるように、はあはあと息を荒げる。
熱を含んだ瞳で見つめられ、やがて長い睫毛がそっとその瞳を隠していった。
「繋心さん、また明日…」
頬をそっと撫でられる。
こんな、こんな状態で眠れるわけがない。
血液が身体の中心に集まり、脈がドクドクと打たれる。
熱いくらいだ。
頭と下腹部は、もうヤることでいっぱいだ。
体力がどうとか、眠いだとか、そんなことはつくづくどうでといい。
横抱きしている身体に覆い被さり、寝間着の上からやんわりと胸を触り、豊満なそれの感触を楽しむ。
「るる…」
名前を呼び、いかにその女を愛しているかを聞かせ、たっぷり啼かせてやろうと意気込んだのに。
「くー…」
彼女は既に寝ていた。
僅か1分足らずで、寝息を立てていた。
「は?るるさん、またこのパターン?」
諦めて横に戻る。
熱がなかなか落ち着かない。
夜に咲く花の香りは、煽ってばかりだ。
結局、今日も疲れが溜まるのは俺だけだ。
寝不足な上に取れなかった日頃の疲れを抱えて支度を終える。
昼になると、またたっつぁんが来た。
「昨日は楽しめたか?」
「……あ、忘れてた」
貰ったブツを忘れていた。
鞄を開けて中身を改めて確認する。
「使ってねえのかよ」
「昨日は寝た」
「寝たぁ?」
「毎日、アイツも寝てなかったんだ」
「毎日…」
呆然と鸚鵡返しをされる。
俺も昨日のでやっとわかった。
アイツも毎日襲ってくる割には無理していたんだと。
「よ、余計な世話だったな、これ」
「ある意味で大正解だがな。
俺の体力がもたん」
こういう商品は、名前のセンスが全くどうかと思うが。
(たっぷりマムシエキス、ねえ?
どこまでが本当なんだか)
ありがたくも次の休日には、しっかり活躍してもらった。
「お前の体力が…?」
俺も自分が聞く側ならそんな顔をしていただろう。
あの小さな身体は、恐ろしく、エロく、エネルギッシュなのだ。
「お互いに、禁欲は無理だったな」