第38章 【番外編】言わないと伝わらないこともあります
必要な参考書を買うのにどうしても大きな本屋に行かなくてはならなかった。
1日暇な日を見つけて、のんびり買い物を楽しむ日を作ろうと決めて、駅前に向かった。
広場は夏真っ盛りで人がごった返していた。
恐らく他の地方の観光客もいるだろう。
いつもより賑やかな大通りで、唯一聞き覚えのある声がする。
「……です」
「…っ!!」
るるさんだった。
誰かと話しているようだったが、烏養さんではなく、全く知らない人だった。
「え、えっと…」
「えー?じゃあお茶だけしない?」
「それもちょっと……」
「るるさん!!」
明らかにナンパだった。
押しに弱そうなるるさんならいけるとみたのだろうか。
「すみません、俺の連れなんで」
細い手首を掴むと慌ててその場から離れた。
「す、菅原くん!ごめんね!?」
考えもせずに腕を引いて小走りしてしまっていて、彼女の声でやっと我に帰った。
「わ!ごめん!こっちこそっ!?」
手を繋いでいたことも忘れ、慌てて離した。
「なんか変な人に絡まれちゃって……ごめんね!
助かっちゃった…」
心細かったのか、安心しきったように無邪気に笑う。
(うっわ、かわいい……)
夏らしい服装はいつもより露出が高く、真っ白な鎖骨が見える。
膝丈のワンピースがひらひらとはためき、それを引き立てる薄いカーデ。
上品でそれでいて全面に女の子のよさを引き立てていた。
髪型も夏らしく少し上の方でまとめられている。
ガン見してるのもさすがにまずいと、ふと視線を外す。
「菅原くんも一人?」
「う、うん、ちょっと参考書欲しくて…」
「私も繋心さんが夕方迎えに来るまで時間出来ちゃったんだぁ。
お買い物付き合うから、付き合って!」
「つっ!!!」
違う意味で言ってるのは勿論わかっているんだが、彼女からその言葉が聞けるとは思わず、対応に困ってただ頷くしか出来なかった。