第35章 【番外編】ミルキーウェイで逢いましょう
波の音が近くなる。
本当に歩いてすぐのところに浜辺があることを知って、とても驚いた。
青みがかかった満月は本当に綺麗で、どこか怪しくて、まるで別世界にきたようだった。
石畳が終わると、真っ先にサンダルを脱いで思いっきり砂浜に向かって走った。
「すごーい!」
「あ、おいっ!」
潮が満ちていて、浅い水面がどこまでも続いている。
キラキラと月の光を乱反射してる水面が星空みたいで、天の川がもし歩けるなら、こんな感じなのかな、と思った。
「転ぶと濡れるぞ!」
慌てて繋心さんもこちらに来る。
さっきみたいに優しく腰に手を添えてくれる。
「ありがとうございます…」
嬉しいのに、少しだけ恥ずかしい。
見下ろしてくる繋心さんも恥ずかしそうにする。
「なんだ、…その、その服、花嫁みたいで、いいな…」
「色味も綺麗ですよね…」
「……!」
「…っ」
二人して別の話をしようとしたのに、繋心さんの一言で結局また黙ってしまう。
不意に、お風呂上がりで首に巻かれてたタオルを私の頭にのせてくる。
「きゃっ」
「はは、やっぱタオルじゃサマになんねーか!」
顔にかかった布を折って優しく頭にかけられる。
「あ、ベールのことですか?
ふふ、花嫁さんみたいになりました?」
「ちょっとダサいけどな」
そう、笑いながら言ってたのに、真剣な顔をされる。
魅入ってるうちに、唇を奪われる。
とても優しいキスだった。
顔が熱くなっていく。
離れていくのが、名残惜しい。
「繋心さん……結婚してくれますか?」
「それ、俺が言うやつ…」
「してくれますか?」
「絶対、する…」
「私、嫉妬深いし可愛くないし、それでもいいですか?」
「何言ってんだ、全人類で1番可愛いに決まってんだろ…っ!」
お世辞でも嬉しい。
幸せ。
そう言いたいのに、喉がつかえて声が出ない。
息が、できない。
それが悔しくて、ぎゅっと抱き締める。
「お前こそ、こんなオッサンでいいのかよ」
「ん…世界一カッコいいです…」
天の川で一年に一度の逢瀬は、こんな気持ちなんだろうか。
私たちは、毎日一緒だけれど、それでも、ひとつの身体になれないことがたまに悲しくなる。
きらびやかな星と月、水面に包まれて、また一つキスをする。