第34章 アップルアンドシナモン3
目が覚めると、そこは知らない場所だった。
真っ白な天井とつんとする消毒薬独特のにおいで、病院かそれに似た施設とわかった。
「……」
また、生きてしまった。
最初に思ったのは、そんな言葉。
もしかして、あの日に戻ったのではないかとすら思う程よく似た錯覚。
デジャヴュ、という現象だったか。
頭と骨が痛い。
重い風邪を引いた時と同じ。
ぼーっと天井を見ながら頭を整理する。
外は大雨だった。
あれに寝ている間に打たれてしまったのだろうか。
「起きた?」
明るい声の看護婦さんが巡回に来てくれた。
「急に運ばれてきたのよ、あなた」
乾いた服と荷物を渡される。
洗濯までは出来なかったようで、所々泥のような染みが残っている。
「ごめんね、決まりで勝手にお洗濯しちゃいけないのよ。
でも可愛かったから、乾かすだけはしといたわ。
お財布だけは身元確認で開けたけど、携帯は壊れるといけないから拭いといたわ。
そんなとこかしら」
「あの………、誰かに、連絡しました…?」
「学校には一応ね、保護者さんが来ると思うわよ」
「……っ」
「ちょっと」
看護婦さんの制止を聞かず、腕にされている点滴を外して着替える。
繋心さんが来る。それまでに行かなきゃ。
「お世話になりました、ありがとうございます」
入院着を脱いだところで前のめりに倒れた。
「…っ!!」
「無理だよ!そんな熱で…」
「…でも…」
「諦めなさい!」
ベッドに綺麗に引き戻され、さっきと全く同じ状態に戻される。
「うぅ…」
思うように動かない身体に泣けてくる。
ただでさえ、色々あってぼろぼろだというのに。
「なんか、ツラかったんだねぇ」
優しく掛け布団をかけなおされ、再び点滴の処置をされる。
涙が止まらない。
あの日と同じだ。
交通事故を起こして、一緒に消えるつもりだったのに、またこうして生きてしまった。
繋心さんの言ってた言葉が反芻する。
『生きなきゃいけねえってことだ』