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迷い道クレシェンド【HQ】【裏】

第1章 夕日と肉まん


夕方の店番、うるさい喧騒と共に本日のピークを迎える。
学生を迎えて一段落したところで、一服するのに店先へ出た。
今日は早目に閉めるか…と看板をしまいにかかろうとした。
「もうおしまいですか?」
か細い女の声だった。
「いや、まだ…」
珍しい、華奢な娘だった。
色が驚くほど白く、ふわっと揺れる髪に一瞬目を奪われる。
こんな店に同じような年代の女が来るなんて早々ないことだ。
「よかった…。
肉まん一つ、お願いします」
安心したように微笑むと、1円と10円を組み合わせた細かい小銭を渡してきた。
ぴったりその金額なのを確認する。
だが、年も俺とそう変わらなさそうな女が、こんな小学生みたいな金の出し方するだろうか?
疑問に思いながら彼女の細い手に商品を渡した。
「まいどありー」
なんとなくだが、その女がどうしても気になる。
看板をしまい終え、埃を払うとまだいるのではないかと期待して店先へ顔を出し、驚いた。
自販機の横で静かに泣きながら女は肉まんを食べていた。
よく見るとボロボロの学生鞄が一つ。
荷物が大量に入っているのかパンパンに膨らんでいた。
「烏野?」
校章を確認するとそれは見覚えがあった。
だがこんな女子が同級生にいただろうか?
見積もっても俺より一つか二つ下、クラスや人数はそう多くない学校で、会ったことのない同胞なんて存在するか?
「…おい、どうしたんだ?うちの肉まんそんなに美味いか?」
「!」
恥ずかしかったのか咄嗟に彼女は涙を袖で拭い、微笑みながら口を開いた。
「ごめんなさい!3日ぶりにまともなご飯が食べられてつい…」
「3日!?」
思わず鸚鵡返しをする。
ざっくり話を聞くと家族と喧嘩して家を飛び出したらしい。
自販機や繁華街で落ちてた小銭をかき集め、数日は公園と心霊スポットで有名な屋敷で寝泊まり、たまに学校に忍び込んで寝泊まり、という生活だったらしい。
おいおい、警察案件じゃねーか…。
面倒な女に話しかけちまったもんだ。
と内心毒づく。
こんな話聞いて、それじゃーさよならっていうのも出来ない。
「1週間ならうちの空き部屋使ってもいいぞ。
口うるせー親が帰ってきたら、その、説明とかめんどくせえから帰って貰うが」
「ほ、ほんとですか…?」
今にも泣きそうな嬉しそうな顔をされる。
不覚にも胸が締め付けられ、血液が顔に集まっていくのがわかる。
(かわいい……)
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