第31章 【番外編】まだ坂道を登っているようで
………
今何時だろうか。
夢と現実の狭間、ふと起きた際に思ったことだ。
「頭いてー… 」
ガンガンと中から打ち付けられるような痛み、からからの喉、胸焼けで思い出す。
煽られて飲まされたカクテル。
「やっちゃったな…」
そこまで思い出したが、次の疑問だ。
「どこだここ?」
全く見に覚えのない景色。
部屋。
テーブルに乗った食器類とコップを見て、手厚い介抱を受けたのは間違いない。
ご丁寧に服も暑くないように脱がされ、畳まれていた。
部屋にある可愛い小物を見る感じだと、若い女性じゃなかろうか?
もし可愛い娘だったらそのままいただくか、なんて考えつつ策略を練りながら、戸の閉まってる部屋まで行く。
が、そこで聞き覚えのある声にハッとする。
「…ぁっ!いやぁっ!」
少しだけ伺うと、男女の戯れ。
それは今まで見たことないくらい色っぽく喘ぐるるだった。
「もっと…っ!きて、きてぇっ!」
「煽んなっつーの…」
慈しみに満ちた瞳、赤く火照った白い肌、何より幸せそうに抱かれるその姿は、俺が今まで見てきたものとは全く違った。
幸福に抱かれる女の美しさ。
色んな女の子でそれを見てきたが、結局短い人生最も愛した女のソレは自分で見るに至らなかった。
居たたまれなくなり、静かに戸を閉める。
荷物を纏めると外に出た。
始発まであと二時間。
「なんであそこにいたんだ、俺…」
未だに埋まらないパズルのように断片的な記憶を辿る。
ふとした瞬間に思い出す、あの美しくも妬ましい情景。
最初から実らないとわかっていたのに、今更過ぎるだろう。
「あー、早く彼女作ろー……」
自販機で買った冷たいコーヒーが身に染みる。