第19章 ほしゅうじゅぎょう
日も傾いた午後6時、図書室は閉められる。
図書室の先生に事情を話し、森井先生とここで補習するので鍵を貰った。
いやだなー…とまだ脳内が拒否してるので、そっと構えた。
「るるさん、お待たせ。
さあやろうか」
爽やかに挨拶すると、先生は私の向かい側に座った。
ほとんど空欄の課題を見られる。
「るるさん、あそこの大学狙うんでしょ?
そうしたらこのくらいは…」
「でも、この問いだと答えがいくつもありませんか?」
イライラしてしまった私は、らしくもなく口出しをしてしまった。
冷静に、と何回か復唱する。
「そういう考え方もあるね。
じゃあここは…」
先生は、順番に何をどうするか考え方を整理して、最後に答えを1つ出した。
確かに、教え方は上手い。
文章題も要点のまとめ方と、最後の〆まで提案してくれて、尚且つその問いへの基礎知識をプリントしたものを添えてくれた。
課題が終わる頃には、私もすっかり警戒心を解いていた。
「ありがとうございます!」
「いいえ。
るるさんが進学したいって言うようになって、僕も安心したよ」
「また名前……」
「ごめんごめん、可愛い名前だからつい」
さっきより許してしまっていた私は、つい、笑ってもういいです、と言った。
「そうだ、頑張ったから、飲み物買ってきたよ」
「わぁ、嬉しい!」
小さいお茶のペットボトルを受けとる。
ひんやりしたそれは、暑い放課後には気持ちよかった。
「冷たくて美味しいですね、ありがとうございます」
笑ってそう返すと、先生も、そうだね、と言って笑った。
その先生の笑顔を見て、何故か急に身体がぽかぽかとしてくる。
手足の力が抜けて、そのまま前のめりに倒れる。
「…!」
先生は私のスカートから図書室の鍵を取ると、ドアを閉めた。
「…あっ……」
声が出せずに、掠れた息だけが空気を震わせる。
視界が揺らいで恐怖心もなくなっていく。