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迷い道クレシェンド【HQ】【裏】

第18章 宿題とビール


蒸し暑さがしんどくなってくる。
夜は少しはマシだが、風のない日はそれでも暑い。
風呂上がりに一杯飲もうとのんびり居間に行くと、宿題の手を止めて視線の合わないるるがいた。
「終わったか?」
声をかけると、少し驚いたようだった。
「あと少し…」
ふわぁっと話しかけると眠気を感じ取ったのか、欠伸を一つ噛み殺す。
間抜けな猫みたいで少し面白かった。
「宿題なんて珍しいな」
「しかも私だけなんですよねぇ……。
そんなに授業態度悪かったかな…」
「はあ?」
虚空を見ている悩みの種はそれだったようだ。
「進路相談したんだろ、その結果じゃねえか?」
「あ、真面目になったなって?」
「そういうこと」
「んー…」
るるは納得したかしてないかわからない返事をして黙った。
シャーペンをくるくると回しながら尚も考える。
プシッといい音を立てて缶を開け、冷えた炭酸が身体に行き渡る。
音をなるべく小さくして、邪魔しないように深夜のニュースを見た。
下らない不倫だのなんだのが取り上げられている。
その後のバラエティーを楽しみに諦めてそれを垂れ流す。
「うーん…」
「またかよ、どうした?」
「私、その先生、すこーし苦手なんです…。
なんというか陰湿というか…あまり印象良くなくて…」
他人にあまり興味ないるるが珍しく口を尖らせた。
彼女は割と他人に対して厚い防壁を張る。
本心を見せないように、そして、余裕がある演技をしやすくするように。
ほとんど無自覚に身に付けたのか、本人はそれをわかってはいないが。
だからか、人の名前を覚えるのは遅いし、名前を覚えたくらいでは関わろうとすらしない。
最近漸く、バレー部のメンバーを覚えてきたほどで、同じ中学の後輩だった影山すら名前は覚えていなかった。
「お前がそこまで言うの珍しいな?」
「んー、そうかもしれません…」
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