第1章 あなたには私しか居ないんですよ
今日も会話にならない会話をする
主と俺だけの会話
だけど主は返事をくれない
「主、遠征部隊が帰ってきましたよ」
「今日は鍛刀で髭切がやってきました」
「短刀達が遊んでいる時に池に落ちた様です」
「鶴丸がまた落とし穴掘ってました」
「鶯丸と平野が仲良しみたいで…
まるで私と主みたいですね」
これだけ話しても返事はくれない
俺に見向きもしない
なんて主だって思うだろう?
これが二人の愛し方だ
どれも秘密の会話さ
ほかの誰にも伝わらない、それが良い
人の体を得てから一番の幸福と言える
「主、寒くありませんか」
「少し失礼します」
主が寒くない様に布団をかけ直す
風邪でもひかれると困るから
「寝られない…のですか?」
「長谷部にお任せ下さい!」
眠れなさそうな主に何かかける言葉を探す
「では昔話でも話しましょう」
「昔昔、ある所に若い男女がいました」
「男は女に心底惚れ込み
女は流れに身を任せました
すると男はある考えが浮かび――」
どんどん自分の声が歪む
口角は酷くつり上がっていく
「おしまい」
「主、もう寝ましょうね
明日もまた私だけを見ていてください」
「主命なので私は頼りないですが
きちんと生きていきます」
主には明日がありませんもんね。