第4章 甘い香りのその果てに
(エルヴィン、さっき何か言いかけてた)
軽い酔いにも似た感覚を覚えつつ、覚束ない手付きでシャツのボタンをつまむ。
(『まだ』…まだって、何がまだなの?)
いい想像も、悪い想像も、ぼんやりと浮かんではまたぼんやりと消えていく。
しかし、最後に残ったのは…
(…もし、私の考えてる事と同じなら)
「大丈夫かい?」
「え…?」
「掛け違えている」
「何で…。ちゃんとしてたのに」
そうぽつりと呟き、ナナバは改めてボタンをつまむ。
「私がやろう。少しじっとしていなさい」
そう言っては俯きがちな視線で、エルヴィンは一つずつ丁寧に直していく。
その指先で、ナナバの素肌を掠めながら。
「…ナナバ」
「うん…?」
「まだ、口にすることはできない。だが…いずれ、必ず」
「エルヴィン…。私も……」
気付けば、ボタンはすっかりと綺麗にとめられていた。
ありがとうの一言に、エルヴィンは満足そうに頷いては最後に襟元を軽く整えてやる。
そして、優しく抱き寄せた。
(ナナバ。君と、もっと特別な関係に)
ナナバもまた、柔らかく抱きしめ返す。
(エルヴィン。もっとずっと、近くにいたい)
まだ、言葉にはできない。
だからこそ、伝わるように。
この口づけに、想いと願いを乗せて。
了