第12章 オアシス
「お疲れ様」
「あぁ、ありがとう。君もね」
愛しい人からのねぎらいに、謝辞といたわりをもって返す。
しかし、二人を包む仄かな明かりも、微かに聞こえる滑らかな旋律も、その声音に滲む疲労を隠せない。
「ね、無理しないで。
このまま休んだら…?」
上等な絨毯が何処までも続く廊下を、並んで歩くナナバとエルヴィン。
二人の遥か後方では、今しがた退室してきたホールの扉が、こちらとあちら、二つの世界を別つ。
「いや、大丈夫だよ。
しかし君には悪いことをした。
本気で一晩中とは……」
「気にしないで。
体力には自信があるんだから」
微笑み、安心させるように頷くナナバの耳元には、エルヴィンがプレゼントしたイヤリングが控えめに揺れる。
「夜会の招待状には"場合によっては"と書かれていたから、まさかとは思ったが、油断したな」
「ふふ、珍しく落ち込んでる。
私なら平気。
着替えたらエルヴィンと一緒に戻るよ」
「助かる」