第7章 新年のご挨拶
どんな顔をして夕を見たらいいのか分からない。
気持ちを知られた今、待っているのはイエスかノーだから。
イエスの可能性は限りなく低いの分かってるし。
「上着、返しに」
「お、おう。そっか。サンキューな」
顔も見ずに黒いダウンジャケットを夕に押しつける。
耳当ても返さなきゃいけない。
外してそれも突っ返すように夕に突きつけた。
「なんだよ。礼言ってんのにその態度」
「…夕がちゃんと持ってかないから。わざわざ持ってきてあげたんでしょ。めっちゃ寒かったんだから」
私はまだ夕の顔を見れない。
視界の端には夕の白いトップスとむき出しの腕が見えている。
「そりゃあ、悪かったけどよ。んな怒んなくてもいいじゃねぇか」
「別に怒ってないし」
「じゃあなんでこっち見ねぇんだよ」
「別にどうだっていいじゃん」
段々お互いの語気が強まっていく。
ギスギスした空気を感じ取ったからか、ニット帽の子は「お、俺ちょっと便所行ってくるわ」と言って場を離れていった。
「ほら、夕が怒るからあの人気遣っちゃったでしょ」
「それは俺のセリフだ。何カリカリしてんだ。腹でも痛いならトイレ行けよ」
またそうやって。
デリカシーのないこと言って。
「…違うって、いつも言ってるじゃん!」
「ハライタじゃねぇんなら何なんだよ。言わなきゃ分かんねぇよ!」
ああ、もう。
新年なのに最悪な日だ。
「顔見れるわけないじゃん! フラれるの分かってて、好きな人の顔なんて見れないよ!」
「……っ」
急にあたりがシン、と静かになった。
夕は何も言わない。
ほらね、こういうことになるから言いたくなかったんだよ。
この静寂が全てを物語ってる。
私の気持ちが実らないってことを。
「お前……あれイタズラじゃ、なかったのか」
「……」
言葉が出てこなかったから、私は静かに頷いた。
沈黙が痛い。
ダメだって分かってるから、早く終わって。
家帰って泣くんだから早く「悪い。お前の気持ちには応えらんねぇ」って言って。
そしたら、全部おしまいだから。
お願い。早く。
「春華」
「……」
どうせフルんだからさ。名前なんか呼んでくれなくていいんだよ。
むしろ丁寧にフラれる方がキツいよ。
優しくしないで「お前と恋愛なんて考えられねぇよ」ってバッサリ断ってよ。
「春華、頼むこっち向いてくれ」
「…やだ」