第7章 新年のご挨拶
「さっきまで新年初勝負をしてたからな! 龍もやろうぜ!」
「おういいぜ。…けどよ、一回顔洗った方がいいんじゃねぇか? もう書くとこねぇじゃん」
「俺に墨塗る気でいるのか、龍」
「当たり前だろ」
龍め。甘いな。
俺はさっき春華の技を習得してきたんだぜ。
テニス部仕込みのサーブで負かしてやる!
「ふっふっふ、俺には必殺技があるからな。悪いが一点も龍にはやらねぇぜ」
「スゲー自信満々じゃねぇか! じゃあ見せてみろよ、その必殺技とやらをよ!」
龍がいい感じに煽ってくれたから、俺も自然と気合いが入った。
春華のサーブを頭の中で思い出しながら、高く羽根を投げ上げて、手首のスナップをきかせて打つ!
ぺちっ。
「……あれ」
「なははは! ノヤっさん、こけおどしかよ! はい罰ゲーム」
「しゃーねぇな」
ポケットの筆ペンを渡すと、龍はどこに書こうかニヤついた顔で俺を見ている。
「新年初勝負、ノヤさん負けたのか? こんな顔真っ黒にしてよ」
「いや引き分け。それより早く書け、龍! 今度こそ俺のサーブが火を噴くぜ!!」
「分かった分かった。っつってもほんとスペースが……。……おい、ノヤさん。ひとつ、聞いてもいいか」
途中から龍の声の雰囲気が変わった。
すごく真剣な顔をしていたから、何事かと思う。
「ノヤさん、新年初勝負した相手って、女子か……?」
「おう。隣の家のな。それがどうかしたか」
「……これ、ノヤさん気付いてねぇよな……」
こっちに質問しておきながら龍は一人でぶつぶつ何か言い始めた。
なんだよ、気になるじゃねぇか。
「あん? 何の話だ」
「……ええと…口で説明するより見てもらった方が早ぇわ」
「?」
話の見えない俺に、龍はスマホを取り出して何度か画面を触った後、スマホを俺の顔に向けてきた。
画面に表示されているのは、さっき龍が撮った墨だらけの俺の顔。
「これが何だってんだよ」
「よく見てみろよ」
「……?」
「こうしたら分かりやすいか?」
言って龍の指がスマホの画面に触れ、写真が大きくなった。
俺の右頬あたりが大きく表示され、じっと見ると、小さく『スキ』と書かれていた。
俺の顔に墨を入れたのは、ただ一人。
春華しかいない。
あいつが、俺のことを、『スキ』?