第7章 新年のご挨拶
「おお! 今のサーブ凄かったな!! さすがテニス部」
「ふふん、恐れ入ったか」
「次は拾ってみせるぜ! も一本!」
「その前に。筆ペン、貸して」
夕に習って、私も顔に墨を塗る。
スッスッと動かした筆先が、夕の顔に消えない印をつける。
「この墨でマルとかバツとか書くのってさ。元々魔除けの意味があるらしいよ」
「そうなのか。春華は物知りだな」
「…魔除け、か」
「でも俺はもう顔に墨は塗らねーぜ」
ほら、とまた羽根を手渡され、今か今かと待ちわびている夕にまた気合いのこもったサーブを打つ。
今度は少しカーブをかけた。テニスとはちょっと勝手が違って、ちょっぴりしか曲がらなかったけど。
それでも夕を惑わすのには十分だったみたいで、ぽとりと足下に落ちた羽根を見て夕は悔しそうな顔をした。
「はい魔除け魔除け」
「あっお前ズルいぞ。なんかいっぱい書いただろ」
「2、3個おまけしといた」
「くっそ! 次こそ拾う!」
リベロ魂に火がついたのか、自分がサーブすることなく、夕はひたすら私のサーブを拾おうと一生懸命になっていた。
しばらくすると慣れてきた夕に拾われるようになり、お互い顔が黒くなりつつあった。
「お前、なかなかやるじゃねぇか」
「夕こそ」
勝負は五分五分で、決着のつけようがなさそうだった。
もうかれこれ30分は打ち合いしただろうか。
ちょっとひと息入れよう、と口にしたときだった。
けたたましい着信音が夕のポケットから鳴り響いた。
「ワリ、電話」
「どうぞ」
悪いな、と片手でごめんのポーズをとって、夕は電話に出た。
何だろう。誰だろう。潔子さん、とか?
胸がざわざわしたけど、気にしてないフリをして一人で羽根をついて遊ぶ。
「…もしもし。おう、おう…分かった俺も今から行く」
やけにあっさりした会話だな、と思いながら夕の方に目を移すと、手のひらを上に向けて私に羽子板を返すように催促してきた。
「あれ、終わり?」
「今年もお前とは引き分けだな。龍から電話でよ。学校にいるから来ねぇかって」
「えっ、今日は部活休みなんでしょ」
「まぁな。…けど、みんな落ち着かねぇんだよ。ちょっくらコレで全員やっつけてくるわ」
私から羽子板を受け取ると、じゃあな! といい笑顔で風のように走って行ってしまった。